2018年10月初旬、イギリスのガトウィック空港に降り立った一機の航空機に注目が集まった。次世代バイオ燃料を使用した世界初のフライト成功で空港が歓喜に包まれたという。本事例を紹介しながら、航空機用のバイオ燃料の実用化・開発の現状を記していきたいと思う。

CO₂を70%削減できる航空機用新バイオ燃料

2018年10月に注目のフライトを成功させたのは、英ヴァージン・アトランティック航空である。このフライトの準備のため、ヴァージンアトランティック航空は米の LanzaTech社とパートナーを締結し2011年から研究を進めてきた。

 

本フライトで使用されたバイオ燃料は鉄の加工過程など、重工業の工場で出る廃ガスである。この廃ガスは炭素をたくさん含んでいるが通常捨てるしか道はない。このガスからエタノールを生成する技術をLanzaTech社が開発し、世界で初めて廃ガスを利用したバイオ燃料による商業飛行にこぎつけた。

食料や植物を使わないバイオ燃料

この廃ガスを利用した燃料の特筆すべき点は、従来のバイオ燃料のように食料や植物を使わず、高いCO₂削減効果が期待できる点である。バイオ燃料VS食料という問題は絶えず議論されてきた。燃料生成のためトウモロコシやサトウキビなどの食料を使うことは、世界で食糧不足に悩む人々がいる中で大きな議論を呼んでいる。またそれを防止する植物由来のバイオ燃料でも土地などの問題もあり一気に生産力を増やせない。

しかしこの廃ガスを利用するバイオ燃料は原料が豊富にあり、いわゆるゴミを利用するものなので、上記のような論争を呼ばない。LanzaTech社は世界の65%の製鉄工場でこの燃料生産プロセスを導入可能だとし、一回のフライトで通常の燃料フライトよりもCO₂の排出を70%カットできるという推計を出している(※1)。

バイオ燃料飛行はすでに世界で15万便

バイオ燃料を使った世界の商業飛行はすでに15万便に到達しており世界各国で開発が進んでいる(※2)。アメリカのアラスカ航空が木材由来のバイオ燃料を使った国内線を始めたり、カンタス航空はマスターシードからオイルを生産しそれを燃料として航空機を飛ばした例もある。またブリティッシュエアウェイズもごみからバイオ燃料を作るプロジェクトを進めている。

バイオ燃料が定期的に使われている空港は5つ

現在、世界の5つの空港(ベルゲン空港、ブリスベン空港、ロサンゼルス空港、オスロ空港、ストックホルム空港)でバイオ燃料が定期的に使われているという(※3)。現在航空機によるCO₂の排出量は世界全体の排出量の2%を超える値を占めており、これは国単位に置き換えるとトップ10に入るほどの排出量であるといわれている(※4)。観光業全体では世界のCO₂の排出のおよそ8%を占めているとみられ、その多くが飛行機や鉄道などの移動に伴うものと言われている(※5)。

現在日本でもJALと日本環境設計がタッグを組み古着からの燃料開発を行い、ANAとユーグレナが共同でミドリムシから作ったバイオ燃料で航空機を飛ばす計画が進行している。日本に限らず世界各国でも開発競争が進んでいることから、今後様々なタイプのバイオ燃料による航空機の飛行が行われるであろう。

(参考)

※1 International Airport Review “First flight fuelled with recycled carbon emissions lands at London Gatwick” 3 October 2018 (最終閲覧日2019年3月19日)

※2 坂本佳乃子、「バイオ航空燃料開発、競争一段と ミドリムシや古着も」、日本経済新聞社、2018年11月2日(最終閲覧日2019年3月19日)

※3 Pharoah Le Feuvre “Commentary: Are aviation biofuels ready for take off?” IEA. 18 March 2019 (最終閲覧日2019年3月19日)

※4 Ucilia Wang ” Here’s what it will take to get aviation biofuels off the ground” GreenBiz. 5 November 2018 (最終閲覧日2019年3月19日)

※5 Nature Climate Change “The carbon footprint of global tourism” 8 May 2018 (最終閲覧日2019年3月19日)