多くの小売電気事業者が登場したことで、どこの電力会社がもっとも安いのかは、需要家にとって気になるところだ。とりわけ事業所においては、電気料金はコストとなっている。とはいえ、安い電力会社を選べばいいというわけではない。電気の使い方や、設備改善によっても電気代が変わってくる。

 こうした複雑になりがちな電気代に対し、リバースオークションというシンプルな形で需要家に「エネオク」というサービスを提供しているのが、エナーバンクである。創業者である村中健一氏に話をおうかがいした。

(株)エネルギージャーナル社 http://www.enekan.net/

 

創業の経緯と事業について、教えてください。

村中健一 元々、学生時代からエネルギーに関する仕事で勝負したいという気持ちがありました。とはいえ、就職しようというときに福島第一原発の事故があり、電力会社への就職をあきらめたのです。それでもインフラに関わりたいという想いから、通信会社に就職しました。そこで、インフラとITについて学ぶ機会がありましたし、電力についてもHEMSの実証試験に参加しました。その後、電力自由化にあたってデータ活用の議論を外部の方としてきましたし、サービスづくりや見える化のアプリケーションの開発にもリーダーとして参加しました。

 こうした中で、お客様目線でわかりやすく電気を選んでもらえる、あるいは賢く使える情報サービスとして、次のアクションにつながっていきます。安くなるだけではなく、節電や太陽光発電の購入につながるということも必要です。

 こうした事業を自分でやりたいと思い、30歳で起業しました。共同創業者でCOOの佐藤(丞吾)も一緒に活動できるタイミングだったということも、背中を押してくれました。

B2Bで、お客様目線でのサービス

提供するサービスは、B2Cではなく、B2Bですね。

村中 通信会社でコンシューマ向けサービスを見てきたわけですが、その上でB2Bのサービスを考えたということがあります。

 事業者は電力会社を選ぶときに、相見積をとりますが、提供される情報がわかりにくいということが問題でした。そこで、オークションという枠組みの中で、お客様が一番安いものを選べるようにしていくしくみを考えました。電力という商品の本質や不正ができないしくみなど、裏側をしっかり構築し、「エネオク」というサービスの中に入れていきました。お客様目線でのサービスが構築できたと考えています。

エネオクの特長は何でしょう。

村中 エネオクの思想、強みは、お客様側に立っていることです。

 お客様がエネオクのサイトで会員登録をすると、マイページがつくられます。ここに現在の電力の契約などの情報を入力しておくと、電力会社が応札し、オークションの結果がリアルタイムで見ることができるようになります。その結果をふまえ、お客様が電力会社とチャットでやりとりができるようになります。また、お客様はこのサービスを無料で使うことができます。

 一方、電力会社にとっては、画面を見ているだけで案件が表示され、データも登録されているので、簡単に見積もりが出せます。これにより、新規顧客の獲得が効率化されます。さらに、落札されなくても、入札によってお客様に知ってもらえますし、これが次に選んでもらえるチャンスにもつながっている。

 今まで、お客様と電力会社の営業担当者とやりとりしていたことが、プラットフォームで行えるようになります。こうした形で電力会社はサービスの競争を行い、お客様はそこから選ぶことができるのです。

そうすると、最も安い電力会社に集中してしまうのではないですか。

村中 価格競争が大変だという見方があります。確かに現状ではお客様は価格しか見ることができていないし、電力会社や代理店も価格で勝負しています。しかし、それだけでは、電力会社がお客様の何を解決するのか、示されません。

その点、エネオクでは、電力会社はお客様とのチャットなどを通じて、アップセルを乗せていくことができます。すなわち、太陽光発電や蓄電池、省エネサービスなどが提案できるということです。したがって、お客様の中に潜在しているニーズを組み合わせた上での価格競争のマッチングとなるわけです。

チャットについて、もう少し詳しくお話ください。

村中 入札期間は2週間に設定しているのですが、この期間、入札した電力会社はお客様とチャットができます。ここで、ピークカットや再エネ比率といった提案が出されます。お客様は選ぶにあたって、最安値を選ぶとは限りません。

 例えば、あるお客様は、電力会社が示した、将来の照明のLED化への対応ということを考え、最安値ではない事業者を選びました。

単純な比較サイトではないという印象ですね。

村中 その通りです。エネオクを通じて、お客様には電力の最適化をしていただく、そういう位置付けとして考えています。

 コンサルティングや相見積のデータを提供していくことで、いずれお客様は毎年、エネオクのサービスを通じて電気の契約をする、そういったオペレーションを取っていただくことを見込んでいます。そこに、エネオクの競争力を求めています。そして、そのためには、どのように我々が情報発信していくのかも、考えていることです。

とはいえ、最近は高圧では旧一般電気事業者の取り戻しが多いと聞いています。

村中 エネオクには十数社の新電力が参加していますが、新電力はまだまだ伸びると思います。

エネルギーを経営課題としてとらえていただきたい

お客様の反応はいかがでしょうか。

村中 経営者にエネルギーについて関心を持っていただけるようにしたいと考えています。エネルギーは、経営課題です。コストだけではなく、どのようなエネルギーを選択していくのか、CO2や条例などにどう対応するのか、太陽光発電を売電するのか自家消費するのか。こうした問題を、総務部門だけが抱えるのではなく、経営課題として全社で対応していく体制をつくっていく必要があると思います。

 私たちも、環境問題に取り組む企業に対応していく方針です。再エネ比率や排出係数などの条件を提示した上で、電力会社に価格を提示していただくということもあるでしょう。お客様においても、電力会社との契約にあたって、毎年、少しずつ排出係数を下げていくということもあると思います。

需要家の最適な組み合わせで電気を効率化

今後の事業展開は、どういった方向に進むのでしょうか。

村中 お客様は需要のカーブを新電力に提供していくことで、kWやkWhの価格を出すことができます。さらに、お客様が営業時間やピーク時間帯などをプラットフォーム上で入力していただき、それらを分析した上で、複数のお客様を組み合わせることができれば、より価格を下げることができます。

 では、お客様をどのように組み合わせれば最適な需要カーブになるのか、AIなどを使うことになるでしょう。

 エリアとカテゴリーと需要カーブの組み合わせ、そして調達と電源管理によってコストを下げていく。こうしたことに特化する営業戦略を考えています。

 お客様や電源のピースがはまっていくと、交渉力を持ったボリュームになっていきます。

 ただ、その前に、もっと会社の認知度を向上させたいと思います。勉強会の実施などを通じて、業界に知ってもらうことが大事です。また、お客様の期待に応えていくこと。行動力とスピードとテクノロジーでは負けたくないですね。

異業種との提携なども視野に入ってくるのでしょうか。

村中 異業種とのプラットフォーム連携は考えています。FinTechや不動産Techなどを連携することで、B2Bの強みが出てくると考えています。そのためには、私たちが、エネルギーTechのNo.1になることも必要でしょう。