2018年11月から家庭向け電力の段階的な自由化が行われ話題のシンガポールだが(参照記事「海外の電力自由化①アジアのシンガポール編2019年3月現在」<https://blog.enerbank.co.jp/power_liberalization/liberalization-of-electricity-market-in-singapore/>)、実は多く電力を使う法人向けの電力自由化の歴史は古く、2001年から行われている。法人向け電力自由化から20年余りが経とうとしているが、電力契約切り替え率などの現状はどのようになっているか。シンガポール政府発表の統計資料(※1)をもとに、エネルギー事情も交え紹介していく。

2001年から始まっている自由化で、法人需要家の切替は進んでいる

Singapore Energy Authority 発表の資料(※1)をもとに筆者が作成

2001年に法人向けの電力自由化が始まったが、今進行中の家庭向け電力自由化と同じように、シンガポールはこの政策も段階的に進めてきた。家庭向け電力はエリアごとに区切って自由化を進めたが、法人向け電力販売の自由化は電力使用量にもとづいて自由化を進行していった。上画像のように段階的に行い、2015年7月までに1か月に2000kwhより多く使う需要家(この数は9万に上り、シンガポール全体の電力消費量の約80%を占める、※1の30頁参照)まで電力受注先選択の自由が与えられていた。2018年11月から行われている電力自由化の完全化で、2000kwh以下しか電力を使用しない法人も選択の自由が持てるようになっている。

Singapore Energy Authority 発表の資料 ※1をもとに筆者作成

上画像はシンガポールの電力会社ごとの販売シェアである。上述のように2001年から電力自由化が進行し、段階的に販売シェアの分散も起こり始めている。元来シンガポールの電力市場はSP Groupの独占だった状況から、市場の自由化を始めたのでいくつかの電力会社にシェアが分散している状況は、切り替えが比較的スムーズに行われているとみていいであろう。今後家庭向け電力の自由化も全面的に実施され、完全な自由化が完了すればさらに販売シェアの分散が進むであろう。

ただ一点、先ほど切り替えがスムーズに行われていると記述したが、その切り替えが現状ではほとんど発電会社の間で起こっているということだ(※3)。つまり販売だけ行っている(日本でいえば発電施設を持っていない新電力のような)小売電気事業者のシェアはまだ極端に少ないという点だ。これは日本、オーストラリア、ニュージーランドなど電力自由化を行っている国とやはり変わらない事情がある。

シンガポールの電力の95%は輸入した天然ガス

Singapore Energy Authority 発表の資料 ※1をもとに筆者作成

シンガポールは主なエネルギー源として天然ガスを多く使っている国である。2010年までは20%程度石油をもとに電気を生産しているが、現在はほとんど天然ガスに由来しており、シンガポール内で生産される全電力の95%は天然ガス由来(※1のVii)で、この天然ガスはほとんど海外から輸入(※4)している。天然ガスは主にパイプラインを通してインドネシアやマレーシアから輸入している。

上記のような理由から天然ガスの安定的な確保はシンガポールにとって必要不可欠である。2004年6月シンガポールでそのことを裏付けるある出来事があった。6月のある日、インドネシアからの天然ガスの供給が乱れ、2時間のブラックアウトが起こったのだ。5億円ほどの経済損失があったという(※5)。こうした事件がありシンガポール政府は電力の安定供給を確保するため、天然ガスをためておくタンクを急速に整備した。

シンガポール再生可能エネルギーは太陽光頼み

IEA(国際エネルギー機構)の統計(※6)をもとに筆者作成

外国の天然ガスに多大に依存していることから、シンガポール政府もエネルギーパレートの見直しに入っている。世界的な地球温暖化の関心もあり、再生可能エネルギーの導入もシンガポール政府も考えている。その主力と考えているのが太陽光発電だ。シンガポール政府作成の資料によるとシンガポールは平地が多く水力発電には向ていない。風もそこまでないので風力発電もあまり向いておらず、水力・風力での発電は全く行っていない。

ただ地理的に太陽光は降り注ぎやすい条件なので、政府は太陽光発電を再生可能エネルギーの主流と位置付けている。実際に2013年ごこから全体の電力需要から見れば微小ではあるものの(2018年第一四半期の太陽光発電の割合は0.8%)、政府のSolarNova progectのもと、太陽光発電量は急速に伸びており投資も積極的に行っている。

※1 Energy Market Authority .(2018). “Singapore Energy Statistics 2018”.<https://www.ema.gov.sg/cmsmedia/Publications_and_Statistics/Publications/SES18/Publication_Singapore_Energy_Statistics_2018.pdf>. (最終閲覧日2019年4月8日)

※2 Energy Market Authority.”Market Share of Electricity Retail Based On Electricity Sales”.<https://www.ema.gov.sg/cmsmedia/Publications_and_Statistics/Statistics/36RSU.pdf>. (最終閲覧日2019年4月8日)

※3 Gautam Jindal .(2019). “Retailer’s exit from Singapore’s electricity market: No need for warning bells” ASIANPOWER <https://asian-power.com/regulation/commentary/retailers-exit-singapores-electricity-market-no-need-warning-bells> . (最終閲覧日2019年4月8日)

※4 Energy Market Authority. “Overview of Gas Market”. <https://www.ema.gov.sg/Gas_Market_Overview.aspx> と”Natural Gas balance table<https://www.ema.gov.sg/cmsmedia/Publications_and_Statistics/Statistics/16RSU.pdf>. (最終閲覧日2019年4月8日)

※5 Desmond Ng & Daniel Heng.(2018).” Stepping on the gas to keep Singapore’s lights burning” <https://www.channelnewsasia.com/news/cnainsider/lng-natural-gas-electricity-singapore-energy-security-tank-10088910>.
(最終閲覧日2019年4月8日)

※6 International Energy Agency Statistics. <https://www.iea.org/statistics/?country=SINGAPORE&year=2016&category=Renewables&indicator=RenewGenBySource&mode=chart&dataTable=RENEWABLES>. (最終閲覧日2019年4月8日)