2019年6月GDP世界5位のイギリスが2050年までにNet Zero(ネット・ゼロ)を達成することを法制化し世界で大きなニュースとなった。現在、世界の多くの国・ビジネス界でSDGsやESG投資への機運が高まる中、次々と議論が進んでいるNet Zero。日本でも、小泉環境大臣の就任などで今後環境問題に注目が集まることが予想される。本記事では、現在どのくらいの国・会社がNet Zeroを宣言しているか、どのようなプランなのか、障壁は何か、を中心に解説していく。

Net Zero(ネット・ゼロ)ターゲットとは?

Netとは純益、正味などの意味でつかわれる英単語である。環境問題の文脈でNet Zeroとは二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを意味する(温室効果ガスの範囲限定の問題については後述)。実質ゼロというのは実際に排出した温室効果ガスの量から、木やCCSなどの炭素貯蔵技術によるCO₂の吸収などを差し引きゼロという意味だ(CCSについての解説記事はこちら)。温室効果ガスを発生させない再生可能エネルギーなどの急速な普及から、このNet Zeroの実現可能性が出始め、各国がこのNetZeroを達成する年を相次いで定めている。

世界でどれくらいの国・会社がNet Zeroターゲットを制定しているのか?

Energy & Climate Intelligence Unit の情報をもとに筆者が作成

上画像はイギリスの非営利シンクタンク、Energy & Climate Intelligence Unit の調査を参考に筆者が作成したものである。2019年10月18日現在で2050年までのNet Zeroターゲットを設定(達成、法制化、法案化、政策文書への記載)している国は世界で少なくとも合計で17か国であった(※1のサイトで経過が定期的に更新されている)。その他に2050年までのターゲット制定議論中の国・地域が50以上あるとしている。法制化まで至っている国はイギリス、フランス、スウェーデンの3カ国だけである。しかし議論中の国もこれから加速していくと考えられ、この数は世界中で今後増えていくことが予想されている。

Energy & Climate Intelligence Unit の情報をもとに筆者が作成

次に都市に焦点を当てる。2050年までに世界人口の68%以上が都市部に住むと推測されており(※2)、都市の環境分野でのコミットは重要な役割を果たす。2050年までのNet Zeroターゲットを制定している都市は、2019年6月現在で少なくとも21を数える。これら21都市の合計歳入は6兆2010億ドルになり、ドイツとイギリスのGDPを足した合計を優に超える。その他にも50以上の都市がターゲットの制定に動き出しているという(※3)。

一方ビジネスの方に焦点を当てると、年間10億ドル以上の収入がある会社で2050年までのNet Zeroターゲットがある会社は34社になる(※3)。もともとRE100などの試みもありSDGsやESG投資への取り組みに敏感なビジネス界。多くが多国籍企業であり国境関係なく世界中で活動しているが、環境面での企業戦略は拠点地域の影響が大きいと推察し国別ごとに分類した。やはりヨーロッパの企業が多数を占めるが、日本企業2社(アサヒグループとソニー)、インドから1社の名前がある。これらの34社の収入総額も1兆ドルを軽く上回り、世界経済への影響は多大にあるであろう。ESG投資の高まりで、環境問題へのコミットが企業の大事な経営課題となっていることから、今後ターゲットを掲げる企業が増えると予想される。

世界で最も野心的なイギリスのNet Zero制定

イギリスは2019年6月29日にメイ政権の下で、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするNet Zero法案を可決させた。イギリスは2050年までに1990年に比べて80%温室効果ガス削減するターゲットの下、2008年から歩んできたが今回その目標よりも高いターゲットを掲げたこととなる。Net Zeroターゲット国の中で最も経済規模が大きいイギリスの目標は世界で最も野心的ととらえても過言ではない。経済規模に応じて、二酸化炭素などの排出が増えているのは統計を見れば一目瞭然であり、その点からしてNet Zero達成は困難に見える。しかしイギリスは着実に実績も出している。

International Energy Agency のデータをもとに筆者が作成

イギリスは温室効果ガスの排出が最も多い石炭への依存を凄まじい勢いで減らしている。上図のように同じく化石燃料であるガスの割合は増えてはいるものの、風力や太陽光などの再生可能エネルギーへの移行を進めている。1990年比でGDPを78%増加させながら、温室効果ガスの排出を42%削減しており、経済成長を実現しつつ温室効果ガスの排出を減らしてきた(※4)。とくにここ数年での再生可能エネルギーの伸長は素晴らしく伸びており、2019年の7月・8月・9月の3ヶ月間、イギリス国内の再生可能エネルギーの総発電量が化石燃料による総発電量を上回った(※5)。

Net Zeroコミットの問題点

野心的な目標を掲げたイギリスのNet Zeroであるが、このターゲットには国際間取引の手段が含まれている。つまり、イギリスは他国から温室効果ガスの排出権を買い、数値上ゼロにすることが許させている。これは大きな向け穴として、様々なメディアから批判を受けている(※6)。

 

Net Zeroに関して国際間で定義があいまいとなっている問題もある。イギリスだけでなく国際間取引によるNet Zeroターゲットを掲げている国は他にも存在する。またNet Zeroターゲットと唱えるもの二酸化炭素の排出量だけを標的とし、他の温室効果ガスは対象外としている目標もある。Net Zero制定への動きが活発になるのはいいことだが、国際間で意見・認識の隔たりが出ているのもまた事実である。

日本にも長期削減計画は存在するが、

日本について言及をしてこなかったが、日本にもNet Zeroターゲットは存在する。安倍政権は2019年6月11日に「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を閣議決定している。本文書の中では、化石燃料による発電を減らし、再生可能エネルギーの促進と原子力発電所再稼働により、2050年までに2013年度比で温室効果ガスを80%削減する旨を改めて表明した。また今世紀の後半に排出量実質ゼロを目指すとも明記している(※7) (目標時期の問題で本記事では触れてこなかった)。SDGsやESG投資の文脈から世界がNet Zero(ネット・ゼロ)への道を加速させるなか、日本が小泉大臣の下どのような道を歩んでいくのか注目である。

参考文献

※1 Energy & Climate Intelligence Unit.(2019). “Net Zero Tracker”. (最終閲覧日2019年10月18日)

※2 United Nations, Department of Economic and Social Affairs. (2019). World Urbanization Prospect: The 2018 Revision.

※3  Energy & Climate Intelligence Unit.(2019).“Net Zero; The Scorecard”.(最終閲覧日2019年10月18日)

※4 The Government of United Kingdom, Department for Business, Energy & Industrial Strategy. (27 June 2019). “UK becomes first major economy to pass net zero emissions law”(最終閲覧日2019年10月18日)

※5 Simon, E. (14 October 2019). “Analysis: UK renewables generate more electricity than fossil fuels for first time”. Carbon Brief. (最終閲覧日2019年10月18日)

※6 Simon, E. (12 June 2019). “In-depth Q&A: The UK becomes first major economy to set net-zero climate goal”. Carbon Brief. (最終閲覧日2019年10月18日)

※7 環境省、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」、2019年6月11日。