2016年4月に日本では電力自由化がスタートしたが、海外ではどのようになっているのか。今回はアジアのシンガポールに焦点を当てていきたいと思う。日本の後を追うように、シンガポールでも電力自由化を進めている。2018年の4月からスタートしたシンガポールでの電力自由化だが、現状(2019年3月中旬現在)はどこまで進み、どれくらいの人が実際に切り替えているのか。シンガポール政府が発表している統計調査をもとに見ていく。

シンガポールの電力自由化は段階的な施策

日本では全国で一斉に始まった電力自由化だが、シンガポールでは国土は小さいものの、段階的に一般家庭向けの電力自由化が進められている。政府が郵便番号で国土を五分割し、それぞれのエリアで電力自由化をスタートする時期を定めている。

シンガポール政府発表の電力自由化マップ
出典:Government of Singapore Energy Market Authority
<https://www.ema.gov.sg/OEM_Nationwide_Launch.aspx>

エリアごとの電力自由化開始時期は以下のように定められている。

  • Jurong Area:2018年4月1日から
  • ゾーン1 : 2018年11月1日から
  • ゾーン2 : 2019年1月1日から
  • ゾーン3 : 2019年3月1日から
  • ゾーン4 : 2019年5月1日から

記事執筆現在(2019年3月13日)ではゾーン4以外の地域で一般家庭の電力自由化がスタートしている。5月に入るとシンガポール全域で電力自由化計画が完了することとなる。

今回の電力自由化は一般家庭向き

2018年からシンガポールで進んでいる電力自由化計画は、一般家庭向けのものである。大口顧客への電力自由化は日本よりも早い2001年から行われており、ひと月に2MWh以上の電力を使う大口顧客には市場の自由化が始まっていた。

シンガポールの電力自由化の国民認知度は96%

シンガポールで始まっている電力自由化だが、国民の高い関心を集めている。パイロットテストのJurongエリアから数えてもまだ一年も経過していないが、2019年1月現在での電力自由化のシンガポール国民の認知度は96%となっている(シンガポール政府調査より、※1)。一方、日本では電力自由化から一年半後の調査で需要家の認知度が79.5%(※2)であった。正式なスタートからはまだ半年もたたずに、ほとんどの国民が知っているということは、シンガポールでの電力自由化の関心の高さがうかがえる。

シンガポールは電力切替率も類を見ないスピード

2019年1月末のデータでのゾーンごとの電力切替率が下図である。

シンガポール政府発表のデータ<https://www.ema.gov.sg/media_release.aspx?news_sid=20190208apxaEOjfGR16>をもとに作成

電力自由化が始まってまだ一年もたっていないが、シンガポールは日本やオーストラリアなどの自由化先進国と比べると、切り替えが凄まじいスピードで進んでいるといえる。Jurong Areaの人口が約12万ほどなので5万人近くが、Jurong Areaにおいて電力の切り替えを実施し(※3)、ゾーン1とゾーン2では合わせて70万人以上の消費者が電力切り替えを実施していると、シンガポール政府は発表している(※1)。

シンガポールの電力会社の数は

電力自由化に伴って、シンガポール政府が一般家庭向けの小売電気事業者として登録している企業数は13社に上る(2019年3月13日現在、※4)。もともと電力販売を請け負っていたSP Groupと合わせて14社から一般の家庭は電力販売を受ける会社を選定することができる。

2000kwh以上使うビジネス需要家に向けての電力販売事業者は2019年3月13日現在で22社が登録している(※4)。
他の国と違い、電力自由化が始まって以来シンガポールでの活発な動きから外国資本による参入をにおわせる報道も相次いでいる。今後のシンガポールの電力自由化の動きに目が離せない。

(参考)
※1  Energy Market Authority.”Nationalwide Rollout of Open Electricity Market Progressing Well”.08 Feb 2019.
<https://www.ema.gov.sg/media_release.aspx?news_sid=20190208apxaEOjfGR16>(最終閲覧日2019年3月13日)

※2 経済産業省 電力・ガス取引監視等委員会「電力・ガス小売り全面自由化に関する消費者行動選択アンケート調査結果」<http://www.emsc.meti.go.jp/info/public/news/20171031004.html>(最終閲覧日2019年3月13日) 

※3  Tnag See Kit.”Full opening of electricity market in Singapore to fire up competition: What will retailers do?”.Channel News Asia.01 Oct 2018. <https://www.channelnewsasia.com/news/singapore/full-opening-of-electricity-market-in-singapore-to-fire-up-10767418>.(最終閲覧日2019年3月13日)

※4  Energy Market Authority.”Open Electricity Market Retailers”.04 January 2019.<https://www.ema.gov.sg/retailers.aspx>.