「エネルギー分野」で起業精神が芽生えたのは、今から5年前の2014年のことだった。

当時私は、新規事業領域開拓として会社方針で命じられたエネルギーコンサルティング部門を立ち上げ、全く社内ノウハウのないところから事業開拓していくというとてもハードルの高い仕事を任せられていた。

また同時に、自社でスマートシティ開発を行うという方針も受け、そのプロジェクトチームも率いていた。

この時の私は「起業」というワードが頭をよぎることは全くなく、与えられたミッションをこなすので日々精一杯だった。

そんな日々を変える出来事が起きたのは、スマートシティ開発プロジェクトを遂行している時だった。

東日本大震災での教訓から、長期停電が発生しても最低限の暮らしができるスマートハウスをつくりたい!という想いが芽生えたのだ。しかし、社内リソースだけでは専門知識が十分ではなかったので、実現に向けて大学やさまざまなメーカーを巻き込むことにした。

一般的な太陽光パネル付住宅の場合、系統電力が停電するとパワーコンディショナから取得できるわずかな電力以上の発電ができなくなる。

この課題を解消し、停電時も発電電力を最大限に引き出す仕組みを構築することで、全てのコンセントがそのまま使えるスマートハウスが完成したのだ。

設備としては、4種類の機器(太陽光パネル、エネファーム、エネファームを停電時に再開させるためだけの蓄電池、太陽光の電力を貯める蓄電池)をセットにしたハードウェアと、これらが連携するソフトウェアとHEMSもあわせて新規開発を行った。

この課題解消を可能とするパッケージシステムは当時市場のどこにもなく、国内初の試みだったのではないかと思う。

その後ハウスメーカーに働きかけ、紆余曲折あったがこのシステムを建売住宅に搭載してもらえ、販売にこぎつけた。

購入希望者が出るのか多少の不安はあったが、東日本大震災での長期停電で多くの人の生活に支障が出たのもあり、完売まではあっという間だった。

ただ、新システムということもあり、販売後ソフトウェアの不具合で、度々エネファームが停止する等いろいろな不具合や問題が発生した。そのためチームメンバーだけでなく、購入者の皆様にもいろいろとご迷惑をかけてしまった。

2014年のある日、いつもの問題とは違って

スマートハウスなのに、なぜ普通の住宅より電気代が高いのだ」と、居住者からクレームが入った。

HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)のデータを分析していくと、最適な電気料金プランを選択していなかったことが原因で、時間別で単価が変動する料金プランに変更しただけで月5千円もの削減ができたのだ。

さらにこの問題を深堀してみると、

①最新の設備を入れたことでハウスメーカー、電気工事業者にノウハウがなく、適切な料金プランのアドバイスができていなかった。

②蓄電池運転モードごとの経済性評価はとても計算が複雑で容易に算定できない。

というのが分かってきた。

その当時から2016年に電力小売全面自由化がスタートし、新規電気事業者の参入により料金プランが増えて煩雑になることが分かっていた。

そのため将来蓄電池が普及すると、もはや需要家は最適な料金プランを選ぶことも、経済性を踏まえて蓄電池の運転モードを選択することも不可能な時代が来るのではないか、それをサポートするサービスが求められるようになるのではないかと考えた。

と、これが私のエネルギー分野での起業の芽生えであり、

電力自由化、創蓄省エネが進む中で需要家が困らない世界をつくるために前職で私がつくった「エネがえる」の誕生のきっかけである。

エネルギー分野で苦労して数年が経ち、ようやく希望の兆しが見えてきたそんな一瞬であった。

エネオクも対象は違えど、需要家がわかりやすくエネルギーを選択する世の中にするためのプロダクトであり、このとき生まれた“需要家によりそう精神”が、このプロダクトの根本にあり、プロダクト企画や要件定義にも生かされているのだ。

私しか知りえないエネがえる開発秘話やエネオク誕生経緯、特許取得などは順次ご紹介したいと思う。

エナーバンク創業ストーリー