株式会社エナーバンク創業8ヶ月を振り返って

「エネオク」という自分の子供のように愛着のあるサービスを世の中に生み出すことができ、業界、メディア、電力会社、多くの法人さんに興味を持ってもらっている。

また、幸せなことにメンバーも増え、創業時3名だったメンバーは現在10名になり、「プロダクト」「営業・マーケティング」「コーポレート」の3つチームでそれぞれの領域で活躍している。

創業前からほとんど休みもなくフルで活動してきたため、なかなか振り返る時間が取れなかったが、メディア露出の機会が出てきて自分自身のことや創業ストーリーを思い返したり話したりすることが増えたので、少し長くなるが自分の過去を振り返って書き出してみようと思う。

会社を設立し半年でプロダクトをリリース、好調のように映っているかもしれない。ただ、ここまで来るには何年も試行錯誤を繰り返し、悔しいことをたくさん経験し、でも諦めずに信じてチャレンジし続けてきた結果であり、正直いえば自分の好きなエネルギーの領域でやっと仲間とプロダクトを武器に勝負できる環境がつくれたという感じだ。

そもそもなぜエネルギーに興味を持ったのか

小学、中学生までさかのぼることになるが、私は大阪の南の方に位置する太子町というのどかな田舎で育った。聖徳太子にゆかりのある町で、「たいしくん」というゆるキャラがいる。山に囲まれぶどうやみかん農家などの自然も多く、子供のころはよく虫取りや公園で走り回って外で遊んで過ごした。

中学生の夏休みの宿題で地球温暖化というテーマで発表したのを覚えている。理科が得意で大好きだった私は、自然界で起こる物事の原理や現象を理解していくというプロセスが楽しかった。

高校生2年生のときに見た「不都合な真実」というアメリカ元副大統領アル・ゴア氏主演のドキュメンタリー映画を見たときに、地球と人類との関係性の中で歪が生じ人類の活動の中で温室効果ガスを発生させすぎて異常気象・自然災害が世界的に多発しているという内容を、さまざまな科学データを用いながら笑いのあるプレゼンテーションするアル・ゴアに何か興味を持ったのを覚えている。世の中を動かすには人々の心を動かし、そこにビジネスを生み、社会の流れをつくること、これが重要なんだと思った。

そんなこともあり、大学ではエネルギーに関わる化学の領域を目指した。2007年に大阪から上京し、慶應義塾大学の理工学部 学問3を選んだ私だったが、その後、化学→物性工学→システム工学と興味が移ってシステムの最適化工学の研究室に3年間所属することになった。

研究室を選択したのは今から10年前になるがスマートグリッドの世界が今後のエネルギーを大きく動かしていくことになると漠然と思っていたからだ。研究では電力の最適化を研究テーマとすることはなかったが、あらゆる事象や設計、意思決定をシステム的に捉え、それを数理モデルに変換し、コンピューターの計算性能の向上の変化に対応した最適化アルゴリズムを使い合理的に最適な解を見つける。局所的な最適解でなく、大域的な最適解を求めていくプロセス、そういった仕組みがビジネスとして社会実装されていくことにたいへん興味を持った。

もう一つ、人生を大きく変える重要な出会いがあった。
大学4年生のとき某電力会社で原子力発電の海外展開を推進する方とセミナーでお会いし、その方に惚れ込みこの方の元で働きたい、「原子力で日本を世界に」を発信していくんだと心に決めた。残りの大学院での生活はエネルギーのこと、原子力技術のこと、グローバルなリーダーシップをしっかり勉強して電力会社に就職するんだと決めた年度の末、ちょうど8年前の2011年3月11日に東日本大震災が起きた。

多くの死者を出し、人が津波で流され、さらに自分が登る山として信じた原子力発電所が絶対安全の5重の壁を破って煙をあげて爆発している。その事実をテレビを通してただ見てるだけしかできなかった悔しさを今でもはっきりと覚えている。当時スキルも何もなかった私は被災地へのボランティアにも行けず、自分がどこに進むべきなのか途方にくれていた。

その数ヶ月後に、アントレプレナーシップ論講座という関東エリアのさまざまな大学の大学生・大学院生が3ヶ月間チームを組みビジネスやマーケティング、チームビルディングを学べるという講座に入った。チームが非常におもしろいメンバーの集まりで、アメリカでリリースされたばかりのC2Cのお手伝いマッチングサービスzaarlyを見つけてきて、これを日本にローカライズし1番先に展開しようと決め、ビジネス初心者の集まりで何もわからない中ワクワクを追いかけて議論して、サービスを作り、プロトタイプでトライアルをし3ヶ月で形にした。当時、「tetol(テトル)」というサービスで2011年の学生ビジネスコンテンストを総なめした。

起業という選択肢を初めて意識したのがそのときだった。ただ、私はいつかエネルギーの領域で勝負をするんだということをずっと頭に意識していたので、ファーストキャリアとしては大企業で学びたいという想いが強くインフラ領域とIT領域で成長できる環境があるソフトバンクに入社した。

ソフトバンクでの刺激的な社会人生活

ちょうどSprintの買収が発表されたのが内定式の前日で、技術統括のネットワーク本部にエンジニアとして入社した私は、国内、海外含めいろんなプロジェクトを経験できた。空を飛行中の航空機に向けて通信環境を提供するネットワーク新規事業を新卒チームで提案し社内でプロジェクト化したり、ソフトバンクアカデミアでは孫校長にプレゼンするビッグ案件を経験し、提案に対して「よく考えたなー、すぐにでもできるように深掘りせい」と苦労を共にしたメンバーと鳥肌が立ったのを覚えている。

その中でも人生に大きく影響があったプロジェクトがある。経済産業省が主導する国のプロジェクトで大規模HEMS実証(ホームエネルギーマネジメントシステム)がソフトバンクの全社プロジェクトとして立ち上がり、主担当としてアサインされた。さすが生涯ベンチャーのソフトバンクだけあって、こういう貴重なプロジェクトに当時1年目の私をアサインし、何もわからない中で失敗して苦しみながら追い込み、一気に成長させる。そんな機会を得られたことで、国が考えるエネルギーの方向性、電力自由化に向けた各事業会社の取り組みや動きを知り、その重要キーマンと対等に会話できるようになれたことをたいへん感謝している。

その後は、ソフトバンクとしても電力自由化で新電力を立ち上げることとなり、上のHEMS実証を2年半フルで経験した私は、通信と電力のセット商材を開発するプロジェクトのリーダーを経験させてもらった。ソフトバンクの中では珍しく、0から企画しプロダクト開発する部門での取り組みだったため、自社開発を行う体制にてハードウェアエンジニア、サーバーエンジニア、アプリエンジニア、ビジネス部門、社内の業務部門、情報システム部門と激しいネゴシエーションを繰り返し、開発がなかなか前に進まない状況、予算が確保できず稼働がストップしてしまうこと、そういった紆余曲折を何度も何度も繰り返し、私はエネルギーオタクとして社内をかけずり回った。

最終的に私が在籍する間にプロダクトがリリースされることはなく、入社から約5年間かけて学び取り組んできた一つの道が閉じかけていた。

そんな中で、上のプロダクトを開発している際に出会った「エネがえる」という電力シミュレーションサービスを国際航業で立ち上げた佐藤さん(のちにエナーバンクのCOOで共同創業者)とディスカッションする中でよりお客様目線にたったエネルギーサービスの可能性について非常に興味を持つようになっていた。

今から1年前の2018年3月17日に佐藤さんから連絡が会社を辞めようと思っていると。私はすかさず「今から飲みませんか?」と連絡を入れ、新橋の地下の居酒屋で熱く互いのエネルギーに対する考えや想いを話した。

村中:「エネルギーで起業しようと思っている。ただ、自分はエネルギーが好きでずっと追いかけてチャレンジしたけど、実際に世の中に出すことができなく悔しい想いをしている。自分には経験が足りない。自分よりもエネルギーのことを詳しいパートナーが必要。」

佐藤:「スマートシティーのコンサル、グリーン電力証書発行事業の立ち上げ、エネがえるの立ち上げ、事業責任者として運用経験、経験と知識を提供できるからチャレンジをサポートしたい。これが最後の起業のチャンスになるかもしれない。」

村中:「ユーザー目線のサービスを実現するため一緒に起業しましょう。」

奇跡の夜に、共同創業者として起業することが決まった。

エナーバンクの立ち上げ

エネルギーテックという新しい領域の開拓者として、私も佐藤もそれぞれの知見やスキル、ネットワークを最大活用しチャレンジしていく。

いつかエナーバンクがチャレンジしたことにより、エネルギーの新時代を作ったと言われるように本気でこの領域をアップデートしていこうと思っている。

かつて私が憧れを抱いた電力会社のイメージは東日本大震災以降決して取り戻したとは言えない。業界や課題の大きさに対して、ワクワクするニュースや若くて優秀な人材がまったく足りていない。まずはエネルギーテックという新たな切り口で業界を盛り返していきたい。

我々の強みはアイデアとテクノロジーとスピード

考えたものを実装し仮説検証を繰り返す。それを1ヶ月や3ヶ月の単位でやり続ける。大企業には真似できないアプローチを取るからこそ、どんどんノウハウが溜まる。そのノウハウこそが最大の資産であり、また次のビジネスのタネや事業に育つ。そんな好循環を生むことがエナーバンクの文化であり、競争力の根源です。

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立ち止まらず次々に攻めていきます。このメディアを公開したのも、そういった私達の取り組みに期待していただくステークホルダー様や将来のお客様とのオープンなコミュニケーションの窓として情報を発信していきたいと思っています。海外事例においてはイギリスでユーザーを伸ばす新電力のbulb社にブログの翻訳と日本での発信のお手伝いをお願いしたところ快く許可していただきました。同様に電力の自由化で先行する海外の情報や専門家のインタビュー記事も本メディアにて紹介していきます。

「エネルギーをもっとシンプルに」

創業時から今後10年後も言い続けるエナーバンクの最大のミッションです。
興味やワクワク、未来への期待値がマーケットを拡大しビジネスを呼び込み、社会のインフラを変えていく。かつての日本の電力やエネルギービジネスの安定性が技術者を育ててきたように、今後はエネルギーテックによるチャレンジが世の中に広がっていき、そこに一石を投じる人たちが必ず増えていくと信じています。

2019年3月11日 株式会社エナーバンク 代表取締役 村中健一